眼鏡やコンタクトレンズなどで矯正しても、十分な視力を得られない状態を弱視といいます。本来、視力は成長とともに備わっていくもので、生後まもない赤ちゃんは視力が低く、1歳で0.2前後、3歳で1.0程度まで視力は成長します。幼少期に視力の成長が止まると、弱視になってしまう可能性があるため注意が必要です。

この記事では

  • 弱視の種類と原因
  • 弱視を調べる方法
  • どのような治療・対策が有効か

を解説します。

弱視とは

弱視という言葉は、医学的には「視力の発達が妨げられたために起きた低視力で、眼鏡などで矯正しても十分な視力が得られない状態」を指します。
眼の病気で視力が十分でない状態は「ロービジョン」と呼ばれ、弱視とは区別されて扱われます。弱視は早い段階で発見されて、早期から治療に取り組めば回復する場合がほとんどです。

3歳で半数以上の子どもが視力1.0になる

誕生した直後の赤ちゃんは明るさが認識できる程度で生後3か月では遠視状態で、視力は0.01~0.02程度しかありません。成長とともに言葉や運動能力が発達するのと同じように、成長にともなってだんだんと視力も備わっていきます。一般的には、3歳で半数以上の子どもが大人と同じ1.0程度の視力に達します。
しかし、こうした視力が備わる時期になんらかの原因で視力の成長が止まってしまうと、眼鏡をかけてもよく見えない「弱視」の状態になる恐れがあります。

早期の治療が重要

視力の成長が一時的に止まっても、妨害している要因を取り除き早期治療を開始すれば、視覚の成長が再開するとともに視力も改善していくと期待できます。
ただし、視覚の感受性は1歳半頃でピークに達し、徐々に失われていきます。8歳の時点でほぼ消失してしまうと言われるため、治療の開始が遅れれば遅れるほど効果は現れづらいでしょう。とはいえ、小さな子どもが自覚症状を訴えるのは難しく、一般的な視力検査が可能になるのは3~4歳頃です。

日本では3歳児健診が行われるので、この時点で弱視の可能性を発見できれば、早期の治療開始が見込めます。
なお、眼鏡をかけた状態での矯正視力1.0が治療の目標としての目安になります。

弱視の原因

弱視の種類は、原因によって次に示す4つに分けられます。

  • 屈折異常
  • 不同視
  • 斜視弱視
  • 形態覚遮断

弱視の治療で難しいのは、ほかに眼の病気が何もないことを確認する点です。そのため視力検査ができる4歳前後まで成長しなければ、厳密に弱視と判断するのは困難です。
弱視の判断は、屈折検査や斜視検査などを含めて総合的に判断します。今後「弱視になる可能性が高い」という診断が出たら、予防的な治療が開始されます。

屈折異常弱視

遠視や近視、乱視など眼の屈折異常の程度が強い場合は、網膜にきちんとピント(焦点)が合わないため、脳への刺激が低下して、弱視を引き起こす原因となります。
屈折異常のうち最も多いのは遠視で、生まれた直後は誰もが軽度の遠視の状態です。成長とともに遠視は改善しますが、強い遠視の場合は網膜にピントが合わず、視力が成長しにくくなってしまいます。同じく強い乱視も弱視の原因になる場合があります。

 

子どもの普段の行動で

  • 目を細めて見る
  • 近づいてものを見る

などがきっかけで発見にいたるケースがあり、3歳児健診や就学時健診で見つかる場合も多く見られます。

不同視弱視

不同視弱視とは、遠視・近視・乱視に左右差が強いためにおこる、片眼の視力障害です。
左右の眼で屈折度数に大きな差がある場合、屈折異常の強いほうの眼に起こる視力障害が不同視弱視です。見えづらい眼は、使われる機会が少ないため、視力が発達しなくなるために弱視になります。
片眼だけに視力障害が表れるのが特徴で、もう一方の視力は正常に発達するため、生活上で不自由を感じることはほぼありません。そのため、親が子どもの様子を観察しても「見えにくそうにしている」とは気づきづらいタイプの弱視です。
ただ、片眼ずつの視力検査や屈折検査で明らかになるので、3歳児健診や就学時健診で分かるケースが多い傾向にあります。

斜視弱視

斜視は片眼が正面を向いても、もう片方の眼が違う方向を向く状態のことです。斜視眼と呼ばれるずれている方の眼では網膜の中心部分で対象を見ていないため、視力が発達しないために弱視になるものです。
片眼性の弱視なので、斜視のない眼の視力は良好で片眼ずつの視力検査や屈折検査で分かることが多くあります。
程度の軽い斜視の場合には外見から分からない場合もあります。そのため片眼だけ視力検査の結果がよくなかったときは詳しい検査を行い、眼の中心でものを見ているか、いないかを判断します。不同視弱視が同時に起こっているケースも少なくありません。

形態覚遮断弱視(けいたいかくしゃだん)

網膜に光を通しにくい状態で成長すると、網膜への刺激が足りずに視力が発達しません。主な原因として、生まれたときからまぶたがさがっている眼瞼下垂(がんけんかすい)、黒目の部分が濁っている角膜混濁や白内障などの病気が考えられます。
形態覚とは網膜に伝わった光によって「どのような形か」を認識する力のこと。網膜が刺激を受け取るために、邪魔をしている要因を取り除く手術が必要なこともあります。
病気のほかにも、眼帯などでしばらく片側の眼を使わずにいるとそれだけで弱視になるケースも知られています。

 

弱視を調べるには

弱視と判断するには、視力が低いという結果だけでなく詳しい検査が必要です。家庭で保護者が「ちょっとおかしいな」と気づいたら早めに眼科を受診しましょう。

家庭で保護者が観察すべき点

子どもがものを見づらそうにしている様子を見かけたら注意が必要です。

  • テレビを前のほうで見る
  • 目を細める
  • ものを見るときに頭を傾ける

などが特徴です。

片眼の視力が発達している場合はとくに気づきにくいので、子どもの片眼を隠した状態で、離れた場所にある時計やカレンダーを読ませると見つけやすいでしょう。
軽度のときなど、保護者が気づかないケースも少なくありません。少しでも異常を感じたら速やかに眼科を受診してください。

眼科での検査方法

直接、眼科を受診するほかに、3歳児健診や就学時健診などで「弱視の可能性がある」と、見つかるケースが多くあります。
その後、眼科では視力検査と屈折(度数)検査、斜視検査などが行われ「弱視かどうか」判断されます。
点眼薬を使った検査が必要と判断される場合もあるでしょう。これは子どもの眼には十分な調節力が備わっているため、通常の検査だけでは正確な眼の状態が分からないことが理由です。点眼薬は眼の調節に関する筋肉を休ませる目的で使用されます。

 

弱視の治療方法

弱視の治療は、弱視の種類や発生した時期によって異なりますが、基本は眼鏡による矯正です。あわせて遮閉訓練を行う場合があります。

眼鏡装用

屈折異常のある弱視の場合は、眼鏡をかけて網膜の中心窩に焦点を合わせることが大切です。鮮明な像が結ばれる状態にすれば、視力の発達が促されるためです。
眼鏡を常用し、入浴時と睡眠時以外は常にかけるようにしてください。また、眼鏡が合っているか定期的にチェックしましょう。子どもの視力は年齢とともに変化することが多いため、弱視の治療には視力の発達を促してくれる最適な眼鏡を作ることが欠かせません。

遮閉訓練

眼鏡を使用しても、視力の回復が不十分なときは遮閉訓練もあわせて行います。これは、良いほうの眼にパッチなどの遮蔽具を付けて、視力の悪い眼で見ることを促す訓練です。すでに眼鏡をかけている場合は、布製の遮閉具を眼鏡の上から付けるなどの工夫も有効です。

形態覚遮断の場合は原因を取り除く

なんらかの病気によって形態覚遮断が起きている場合は原因を取り除くことが優先されます。先天白内障では水晶体の混濁の程度に応じて、水晶体摘出手術が行われます。手術後の経過観察中に、屈折矯正や遮閉訓練が併行して行われる場合が一般的です。

治療に適した年齢

弱視を治療できる年齢には限界があり、一般的には8歳くらいまでとされます。視覚の感受性は1歳半頃がピークで、8歳頃でほぼ失われると考えられるためです。
ただ、不同視や屈折異常の弱視は12歳くらいまで効果がある場合も報告されていますが、早期に発見して、早く治療を行ったほうが治療の結果がよいことも明らかになっています。

弱視に関するQ&A

子どもがメガネを嫌がります。必要でしょうか。

小さな年齢では眼鏡をわずらわしく感じるのは当然のことでしょう。また保護者が、常に眼鏡をかけさせるのがかわいそうだと思う気持ちも理解できますが、弱視の治療には眼鏡の常用は欠かせません。
一般的に年齢が低いほうが治療効果が高いので、継続的にかけるようにしてください。また、子どもの視力は変わりやすいので、眼鏡があっているか定期的なチェックも必要です。

※内部リンク:近視はなぜ起こる?眼と視力のしくみと遺伝や環境の関係

 

弱視は治るものでしょうか。

弱視は発症年齢や発見されるときの様子もさまざまで個人差はあります。ただ、早期に発見し適切な治療を受ければ、治る可能性は十分にあります。弱視は4歳までに治療開始すれば95%、7歳までで75%以上が治ると考えられ、視力の成長を促せれば治療は決して困難ではありません。

 

弱視とは?ロービジョンとはどう違いますか。

WHOでは視力0.05~0.3未満の状態をロービジョンと定義していますが、日本では習慣的にこれも社会的「弱視」と呼ばれています。
ただし医学的な意味での弱視=amblyopia(アンブリオピア)は、児童期までに視覚の正常な発達が阻害されて、低視力となった状態を指します。弱視は、早い段階から眼鏡などで矯正し、必要な訓練によって視力が改善する場合も多くあります。

 

 

【監修】

大阪大学名誉教授(医学部眼科)
不二門 尚先生
小児眼科、弱視斜視、眼光学、ロービジョンなどを専門とする他、一般眼科にも取り組んでいる。

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