糖尿病の合併症のひとつに糖尿病網膜症があります。明るさや色を感じる網膜に障害をもたらし視力低下や失明にもつながりかねない疾患です。
糖尿病網膜症は進行するまで自覚症状が現れないため、定期的な検査が重要です。完全には治せないので、悪化を防ぐためには、糖尿病の治療や血糖値のコントロールが欠かせません。
この記事では、
- 糖尿病によって糖尿病網膜症が起こる仕組み
- 糖尿病網膜症の検査方法
- 治療方法と予防方法
について解説します。
糖尿病網膜症とは|糖尿病が失明の原因になる恐れも
糖尿病の合併症のひとつに糖尿病網膜症があります。明るさや色を感じる網膜に障害をもたらし視力低下や失明にもつながりかねない疾患です。
糖尿病網膜症は進行するまで自覚症状が現れないため、定期的な検査が重要です。完全には治せないので、悪化を防ぐためには、糖尿病の治療や血糖値のコントロールが欠かせません。
この記事では、
について解説します。
糖尿病は血液中に含まれるブドウ糖濃度(血糖値)が高い状態のまま続く病気です。
「糖尿病が強く疑われる人」は、糖尿病と診断され治療中の人を含めて約1,200万人、「可能性を否定できない人」がさらに約1000万人いるとされ、合計で全国の2,200万人以上に糖尿病のリスクがあると推定されます。(出典:令和元年 国民健康・栄養調査|厚生労働省)
糖尿病そのものは命に関わる病気ではありません。しかし血糖値が高い状態が続くことで、細い血管の障害が引き起こされ、その結果として起こるさまざまな合併症が大きな問題となります。
糖尿病網膜症は、糖尿病腎症、糖尿病神経症と並ぶ、糖尿病の「三大合併症」のひとつです。通常は眼の中にある網膜が、入ってきた光を刺激として受け取り、視神経・脳に伝達します。しかし、糖尿病によって網膜が障害を受けると、視力が低下します。
糖尿病網膜症の症状は、糖尿病の悪化とともに進行し、最終的には失明の恐れもあるため注意が必要です。糖尿病網膜症は、緑内障などと並び中途失明の原因としては上位に入っています。
糖尿病の発症によって血糖値が高い状態が続くと、次のようなプロセスで網膜症にいたります。
単純網膜症は、発症して間もない状態です。まず高血糖の状態が続くと、網膜にある毛細血管がもろくなり始めます。やがて毛細血管から血液が漏れ出ることで、血液中のたんぱく質や脂質が網膜に沈着し始めます。
網膜症が進行すると、毛細血管が詰まって、網膜の中に酸素や栄養が行き渡らない部分が出てきます。この状態は増殖前網膜症と呼ばれ、毛細血管は拡張、蛇行など不規則な形を示し始めます。増殖前網膜層の段階でも、網膜の中心にある黄斑に異常がなければ自覚症状はありません。
増殖網膜症の段階になると、広範囲にわたって毛細血管が閉塞し網膜の酸素が不足します。その不足した酸素を補うため網膜から新生血管ができます。
しかし新生血管はもろいため、硝子体中で出血が起こりやすくなるのです。やがて新生血管の周りには増殖膜と呼ばれる組織ができ、網膜を引っ張って網膜剥離の原因になる可能性もあります。硝子体出血や網膜剥離、さらには緑内障を併発することで視力低下や失明にもつながりかねません。
糖尿病網膜症の軽度な段階である単純網膜症や増殖前網膜症では自覚症状はないため、定期的に受診する眼底検査で発見される場合が多くなっています。
視力低下が始まって自覚できる段階まで放置してしまうと、進行を止めづらくなり、失明の危険性が高まります。したがって、早期発見のためには定期的な眼科の受診が重要です。
糖尿病の患者さん、または「疑いのある人」は、年に一度は眼科を受診し網膜症の検査を受けたほうがよいでしょう。
糖尿病網膜症は小さな眼底出血から始まる場合があるため、散瞳薬(点眼して瞳を開く目薬)を使って行う眼底検査はとくに大切です。精密眼底検査を行えば自覚症状のない段階で病気の重症度を判定できる可能性が高まります。
網膜症が疑われる場合は蛍光眼底撮影を行い、網膜で酸素が不足している無血管領域の範囲、血管から造影剤が漏れ出ないかを確認します。
また光干渉断層計(OCT)では、糖尿病による視力低下のもう1つの原因である糖尿病黄斑浮腫の診断を行います。網膜の腫れ具合や網膜新生血管の様子が立体的にわかり、経過観察としても継続的に行われる検査の方法です。
増殖前網膜症や増殖網膜症、また糖尿病黄斑浮腫と診断された場合は、網膜症がこれ以上悪化しないように治療を行います。
網膜症の進行によって、網膜にもろくて新生血管ができると出血が起こりやすくなります。そのため、レーザー治療によって網膜の酸素要求量を減らし、新生血管を抑制することが大切になります。
網膜症光凝固によって出血や白斑も治療できるため、網膜症の進行は抑えられます。外来でも治療でき、点眼麻酔を使用したのちに1回15~30分の処置を数回にわたって行われます。
増殖網膜症まで進行して、硝子体出血が認められる場合や網膜剥離(網膜が眼底から剥がれる病気)が起きた場合には硝子体の手術が必要です。
吸引カッターで出血を吸い取ったり、剥がれた網膜を元に戻したりする手術が行われます。
※網膜剥離に関する対策など詳しくはこちらをご覧ください。
「硝子体内注入」とは、抗VEGF抗体と呼ばれる薬剤を硝子体に注入して、新生血管の成長を妨げる方法です。糖尿病黄斑浮腫にも効果があり、外来で治療できます。ただし3日前から抗菌薬を点眼し清潔にする必要があり、注射を行った後の数日間も点眼薬が欠かせません。
血糖値をコントロールして発症を予防したり、発症しても重症化を抑制したりすることが重要です。初期である単純網膜症の場合は、こうした予防により症状が改善する可能性もあります。
血糖コントロールが悪い人は、網膜症の発症や重症化の可能性がより高いと考えられています。血糖を積極的に下げたほうが、緩やかな血糖コントロールを行った場合に比べ、糖尿病網膜症の発症率が低いと報告もされています。
ただし、急激な血糖降下は糖尿病網膜症が一時的に悪化する可能性もあり、すでに網膜症が始まっている患者さんの治療時には注意が必要です。
糖尿病治療ではHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)という赤血球に含まれるヘモグロビンと糖が結合している割合を示す検査値のチェックが重要で、普段から血糖値が高い人はHbA1c値が高くなります。HbA1cを7%未満に保てれば、網膜症の発症や進行は予防できます。
そのためにも、
など、生活習慣の改善が、糖尿病および糖尿病網膜症の予防にとって有効です。
網膜を守るためには血圧のコントロールも重要です。
高血圧だけでも網膜に病変を起こす可能性があり、これを高血圧性網膜症といいます。さらに高血圧は糖尿病網膜症を悪化させるとも指摘されるため、適切な降圧は網膜症の新しい発症と重症化の予防につながります。
糖尿病網膜症のみを発症している場合、進行しても中期(増殖前網膜症)の段階まで見え方の変化はほとんどない。そのため自覚するのは困難です。
糖尿病網膜症に糖尿病黄斑浮腫が合併した場合には、見るものがゆがむ、視界の一部が欠ける、かすんで見えるなどの症状があらわれる場合もあります。
糖尿病網膜症は、完全には治せない病気です。症状の悪化を防ぐため、糖尿病そのものの治療と同様に血糖値のコントロールに取り組むことが重要です。
治療では出血の原因となる新生血管を発生させないために、レーザーで網膜の酸素不足になっている箇所を焼くレーザー光凝固術が行われます。
糖尿病網膜症による視覚障害者になる人は年間3000人といわれています。緑内障などと並んで中途失明の原因としては上位のものです。
過去の研究データによると、糖尿病患者における糖尿病網膜症の有病率は15.0~23.0%で、罹患期間が10年で、4割以上の人が糖尿病網膜症を発症するとも指摘されています。(出典:糖尿病ネットワーク)
質問にある「失明率」は言葉の定義が明確でないため、数字を示すことは適切ではありません。
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