緑内障は少しずつ見える範囲が狭くなる病気で、40歳以降に発症する場合が多いです。

「どんな症状があったら眼科を受診すべき?」
「緑内障が進行すると失明の恐れがあるって本当?」
「緑内障のよい予防法、治療法はあるの?

などの疑問に答えるため、この記事では

  • 緑内障はどのような病気か
  • 症状と原因について
  • 緑内障の予防法や治療法

を解説します。

中高年の方には身近な病気である緑内障ですが、初期は自覚症状がほぼありません。ただし、早めに治療を始められれば緑内障の進行を止めたり、遅らせたりすることも可能です。早期発見のためには、眼科を定期的に受診するのが有効です。

緑内障とは

人間の眼の中に入った光は、眼球の奥にある網膜に像を結びます。網膜から脳へ電気信号が伝わって、はじめて「見えた」ことになります。緑内障は、視覚情報を伝達する視神経(網膜神経線維)が損傷される疾患です。

もとは120万本あると言われる神経線維の束が減っていく病気で、視神経が減った分、徐々に視野が狭くなります。視野に影響が出るまでの進行はゆっくりで、初期はほぼ自覚症状がありません。

緑内障は放置しておくと、視野が欠けていきやがて失明してしまう恐れもあります。60歳以上では、1割以上が緑内障を患っており、日本人の失明原因の1位にもなっている疾患です。だれもが発症する可能性があるので、40歳以上になったら眼科を受診しましょう。

緑内障と診断されたら、定期的に通院し、進行を抑える、できるだけ遅らせる治療を行うことが重要です。

緑内障と関連の深い眼圧

視神経の障害は、眼圧(眼の内部の圧力)が上昇することで起こります。眼圧の正常値は一般的に10~21mmHgと言われますが、視神経が耐えられる眼圧(健常眼圧)は人それぞれ異なります。したがって耐えられる圧力より上昇した眼圧を低下させれば、視神経の障害は抑制できると考えられています。

眼圧が異常値になれば当然視神経はダメージを受けますし、正常値でも人によっては眼に障害が生じます。「どの程度の眼圧なら大丈夫か」というのは個人差があることを知っておいてください。

眼圧に影響するのが眼の中にある房水(ぼうすい)と呼ばれる水分です。血液の代わりにさまざまな栄養素を眼球の内部で運ぶのが房水の役割です。虹彩の後方にある毛様体でつくられた房水は、虹彩と角膜の間にある隅角という場所から、線維柱帯と呼ばれるフィルターのような組織を経て、シュレム管という管を通って眼の外部へと排出されます。

眼圧は房水の量と、房水が排出されるときの抵抗によって左右されます。房水の流れが止まったり、出口が詰まったりして眼圧が上昇します。

緑内障の種類

緑内障には複数の病型があります。原因や症状、起こりやすい人もさまざまです。

閉塞隅角緑内障(へいそくぐうかく)

房水の出口を隅角(ぐうかく)と呼びます。閉塞隅角緑内障は、隅角が狭くなり房水が流れにくくなった結果、眼圧が上昇することで起こります。
閉塞隅角緑内障には、急性型と慢性型があります。

  • 急性型…著しく眼圧が上昇し、視力低下のほか眼痛や頭痛、吐き気を伴います
  • 慢性型…とくに夜間にかすんで見える場合や軽い頭痛を伴う場合があります

40代以上の女性が男性の3~4倍もなりやすく、とくに遠視の人は注意が必要です。
閉塞隅角緑内障と診断された方には、使用できない薬剤があります。自身の緑内障病型と薬剤の使用可否について、必ず眼科医に確認してください。

開放隅角緑内障(かいほうぐうかく)

隅角が充分な広さであっても、線維柱帯で目詰まりを起こすことがあります。この結果、眼圧が上昇し起こる緑内障が開放隅角緑内障です。
眼圧が上昇するスピードはゆっくりで、初期にはほぼ自覚症状がありません。進行すると一部に見えづらい部分が現れたり、視野の欠損が起こり始めたりします。
多くは40歳以上で発病し、高齢になるほど割合は高くなります。傾向として、もともと近視の人に多いと言われています。

正常眼圧緑内障

眼圧が10~21mmHgの正常値におさまっていても、緑内障を発症するケースがあり、開放隅角緑内障の一部に分類されます。視神経乳頭の構造が弱く、正常値の眼圧でも耐えられずに視神経が傷ついてしまうことが原因です。
以前に行われた数千人規模の調査では、緑内障の発病頻度は40歳以上の人口の5%で、うち7割を超える3.6%が正常眼圧緑内障だったという結果が報告されました。

続発緑内障

もともとある別の病気の影響で起きるものが、続発緑内障です。ステロイド薬の長期にわたる点眼や糖尿病などによる網膜の病気が原因となる場合があります。
ステロイドの塗布、内服、点眼の長期使用は眼圧が上がることがあるため、眼科の受診が必要です。
外傷や角膜の病気、目の炎症などで眼圧の上昇が引き起こされ、結果的に緑内障になることも続発緑内障に含まれます。

発達緑内障(先天緑内障)

生まれつき隅角に発育異常があると、眼圧が上昇し、視神経が障害されます。約3万人に1人の割合でみられ、早発型だと1歳までに約80%が発症し、遅発型では隅角異常の程度が軽いものの10~20代の若年世代で発症します。

緑内障の症状

初期の緑内障は自覚症状が少なく、発見が遅れがちです。
たとえば開放隅角緑内障は、かなり進行するまで自覚症状は現れず、視野が欠けてきたことを患者自身が気づくケースはほとんどありません。
同様に閉塞隅角緑内障も眼圧が正常な場合が多く自覚症状はないものの、発作を起こすと状況が変わります。とくに急性発作の場合には眼圧が40~60mmHg程度まで急上昇するため、視力の低下や強い頭痛や眼痛が起こります。

<緑内障の進行で視野が欠けていくイメージ図>

緑内障と診断するための検査方法

自覚症状の少ない緑内障は、初期にセルフチェックするのは困難です。定期的に眼科を受診し、早期発見につなげることが緑内障の進行を抑えるためには最も有効です。

眼圧検査

眼圧検査には、眼球に空気を噴射して測る方法や、点眼麻酔を投与したうえで角膜を圧迫する測定方法などがあります。
ただ、眼圧は日中にも数値が変動しやすい、冬は高い傾向にあるなど、一度の計測では眼圧を正しく把握するのは困難です。
眼圧を下げることが緑内障治療の基本なので、眼圧の測定は重要な検査といえます。

隅角検査

隅角の状態は、検査用コンタクトレンズを眼の上に乗せた状態で光を当てて検査します。
点眼麻酔をして検査するため、圧迫感はありますが痛みは感じません。
隅角が狭いと、緑内障の急性発作を起こしやすいタイプだとわかります。

眼底検査

眼底検査では、瞳孔を開いた状態で、眼球の奥を観察し、視神経の障害の程度を調べます。
視神経乳頭のへこみの広がりや出血、視神経の欠損状況を確認できます。
近年は「光干渉断層計(OCT)」という検査装置が普及してきました。画像で神経線維の厚みなどを測定できるので、初期の異常にも気づきやすく緑内障の早期発見が期待されます。

視野検査

眼を動かさずに視野内での光の見え方を検査します。検査機で光が見えたらボタンを押すという検査方法で、視野の欠け具合がチェックできます。
視野の欠損が進行しているかを定期的に確認し、緑内障のレベルを判定する際にも使用される方法です。

緑内障のおもな治療方法

緑内障の治療において最も重要なのは、眼圧を下げて、視神経が減らないようにすることです。
個人差があるものの、視神経は約120万本の線維が集まったように張り巡らされています。しかし傷ついた視神経は回復しません。また、眼圧を下げても進行の速度をゆっくりにできない緑内障もあります。そのため治療の目的は、できる限り進行を遅らせることで、回復ではないと知っておく必要があります。

薬物療法

緑内障の治療には、まず点眼薬が処方されます。
大きくわけて、点眼薬の効能は2つです。

  1. 房水の排出を促す
  2. 房水の産生を抑える

加えて、この2つの両方を目的にした薬もあります。
通常は1種から点眼を始めて、効果が弱い場合には目薬の種類が追加して処方されるでしょう。
点眼は1回に1滴行い、複数の薬を併用するときは5分以上の間隔をあけます。これは効果を最大化しつつ、薬の副作用を少なくするために有効と考えられています。

レーザー治療

緑内障のレーザー治療には、2種類あります。

レーザー虹彩(こうさい)切開術 虹彩に穴を開けて、房水の流れをよくする 閉塞隅角緑内障に有効
レーザー線維柱帯形成術 線維柱帯にレーザー照射して、房水の排出を促進する 開放隅角緑内障に有効

虹彩とは、眼球の「黒目」と呼ばれる外周部分です。一方、線維柱帯は、角膜と虹彩が接する部分にあります。
いずれも点眼麻酔を使うため、痛みはほとんどありません。また外来でも対応可能です。

手術

点眼を続けて、レーザー治療でも緑内障を抑える効果が十分でない場合には、手術が検討されます。

  1. 線維柱帯を切開して房水が排出されやすくする流出路再建術
  2. 房水が眼の外に染み出るようにする濾(ろ)過手術

ただし手術も症状を改善させるためではなく、あくまでも眼圧を下げて進行をゆっくりにする目的で行われます。このほかにも眼の中と眼の周りをチューブでつなぎ、房水を導いて眼圧を下げる手術もあります。

緑内障の予防法

一度傷ついた視神経は回復しないため、緑内障の悪化を防いで視野を維持するには、早期発見して治療開始することが大切です。
しかし初期の自覚症状が少ないため、緑内障に自分で気づくのは困難です。40歳を過ぎたら定期的に眼科検診を受けておくのがよいでしょう。
緑内障を完全には予防できませんが、危険因子を遠ざけるさまざまな方法を以下で紹介します。

糖尿病、睡眠時無呼吸症候群などを改善する運動

次のような疾患や症状がある人は、緑内障になりやすい傾向だといわれています。

  • 糖尿病
  • 偏頭痛がある
  • 強い近視や遠視

軽めのジョギングやウォーキングなどに意識的に取り組むのがよいでしょう。適度な運動は、眼の血流を高めることにもつながります。

禁煙して毛細血管で栄養が行き届くようにする

緑内障と関連するタバコの害は、ニコチンや一酸化炭素による血管への影響です。ヘモグロビンの機能が低下して血行が悪くなるので、栄養や酸素が不足しがちで眼球の内部にも影響が現れます。
喫煙は緑内障の発症や進行を早めてしまう可能性があるので、禁煙をおすすめします。

眼圧が上がる状況を避ける

瞼を押しこんだり、まぶたをきつく閉じたりすると、一時的に眼圧が上がります。首元を締め付けるのも眼圧上昇につながるので、注意が必要です。
就寝時はうつぶせや緑内障を発症している眼が下になるような横向きの姿勢も望ましくないとされています。

規則正しい生活を送る

緑内障と診断されても、普段の生活で禁止されるようなことはありません。適量なら飲酒も問題ありませんし、旅行やスポーツなどの趣味に打ち込むのもよいでしょう。

緑内障に関するQ&A

Q:健康診断で緑内障の疑いありといわれたら?

眼科を受診するようにすすめられたはずです。緑内障の初期は自覚症状がほぼないので、眼に異常を感じる前に速やかに眼科で検査を受けてください。

Q:緑内障の人がしてはいけないことは?

特別な制限はありません。運動や読書などで眼を使っても問題ありません。ただし、点眼薬は毎日忘れずに点眼を続けてください。定期的な眼科の受診もお忘れなく。

 

【監修】

大阪大学名誉教授(医学部眼科)
不二門 尚先生
小児眼科、弱視斜視、眼光学、ロービジョンなどを専門とする他、一般眼科にも取り組んでいる。

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