レンズの役割をする角膜は、花粉やハウスダストなど外部からの異物やコンタクトレンズ装用や強い光などが原因で傷つきやすい組織です。
眼が乾くドライアイの状態では、角膜はさらに傷つきやすくなるため注意が必要です。
軽度の傷は治療をすれば回復しますが、重症化すると失明につながる可能性もあります。

この記事では、

  • 角膜の構造
  • 主な角膜障害の原因
  • 角膜障害の予防・治療方法

について解説します。

角膜の構造

角膜は眼球の最も外側にある組織で、一般的には白目と黒目をわけたときの黒目の部分と認識されています。ただし、眼球の奥にある虹彩や瞳孔などの組織が黒く見えているためであり、健康な角膜の色は透明です。

角膜は5層からできていて図の通り、外部から順に

  • 角膜上皮
  • ボウマン膜
  • 角膜実質
  • デスメ膜
  • 角膜内皮

と、呼ばれています。

角膜の5層のうち、最も外にある角膜上皮(じょうひ)は、眼に異物が入るのを防ぐバリアの役割を果たします。
全体の厚みの9割を占める、コラーゲン線維でできている部分が、レンズの役割もする角膜実質です。また、最も内側にある角膜内皮は、角膜の水分量を調整しています。

角膜障害の症状と原因

角膜障害は、起こる部位によって原因や症状が異なるものです。

角膜上皮(じょうひ)障害

角膜のなかでも最も外側にある角膜上皮が傷つき、眼の表面に強い痛みが生じる状態を角膜上皮障害と言います。
角膜上皮の欠損が浅く小さな点状表層角膜症と、角膜上皮の全層に傷が達する角膜びらんがあります。さらに症状が進み、傷が角膜実質や内皮にまで及ぶと、角膜潰瘍や角膜穿孔になります。点状表層角膜症の軽度な症状でもまぶしさや異物感があり、涙が止まらないこともあるでしょう。悪化が進行すると、眼の痛みや白眼の充血、目やに、角膜の一部が白く濁る場合もあります。
角膜は爪や異物、コンタクトレンズなどで傷つけてしまうことが多く、室内の乾燥や長時間のVDT作業などで眼が乾燥するドライアイの状態では、特に角膜が傷つきやすい状態のため注意が必要です。

 

コンタクトレンズを装用したまま眠るのも、角膜上皮障害の原因になります。このほか、点眼薬や紫外線、溶接光なども、角膜上皮障害を引き起こすことがあります。

角膜内皮(ないひ)障害

角膜内皮の細胞は、一度傷つくと再生できません。角膜内皮は眼内にある水分の角膜への侵入を防ぎますが、細胞数が減ってくると徐々に角膜層に水分が入り込み、本来透明な角膜が濁ってしまいます。角膜内皮障害が進行すると、角膜の浮腫のため視力低下が見られます。さらに進行すると、角膜上皮に水疱やびらんを生じ、強い痛みを伴うことも少なくありません。
これを水疱性角膜症(すいほうせいかくまくしょう)と言います。重症な場合では角膜内皮移植や角膜(全層)移植が必要になる病気です。
角膜内皮が傷つく原因は外傷のほか、緑内障の発作による眼圧上昇や、治療によるレーザー虹彩切開時などがあります。このほか、コンタクトレンズの使用や加齢が原因となる場合もあります。

角膜障害の予防

花粉症やハウスダストによるアレルギー性結膜炎や流行性角結膜炎、角膜ヘルペスなどのウイルスによる感染症など、さまざまなきっかけで角膜上皮障害が起こるため、原因となっている病気の治療が大切です。
コンタクトレンズのトラブルも多く、長時間使用や外さずに装着したまま寝るなどは避けなければいけません。とくにハードコンタクトレンズの使用により、角膜内皮細胞が減っていると確認された場合は、コンタクトレンズの使用を中止し、眼鏡に変更したほうがよいでしょう。
溶接光や雪目による紫外線によって角膜上皮が傷つけられるのを防ぐには、保護めがねやゴーグルの使用が大切です。
また点眼薬に含まれる防腐剤などが角膜上皮細胞を障害する可能性が知られています。医師から処方された点眼薬の点眼回数を守らなかったり、独自の判断で市販薬の使用を増やしたりするのは危険です。
通常は、角膜びらんが生じても1~2日程度で欠損部が上皮で覆われ、痛みがなくなります。しかし、知覚障害や炎症、接着不良などで長引くこともあります。糖尿病が原因で知覚が鈍くなっていると感染症を起こしやすいので注意してください。

角膜障害の治療法

眼にはさまざまな疾患がありますが、角膜障害は比較的緊急性の高いものと考えたほうがよいでしょう。強い充血や眼の痛み、目やになどの症状があり、角膜感染症が疑われる場合などは早めに眼科を受診することが大切です。
軽症の段階で治療すれば1か月程度で治る場合も多いものの、重症化して失明する可能性もあります。したがって、経過観察も必要です。
角膜感染症の治療には、角膜保護治療薬や抗生物質を点眼する場合が一般的ですが、重症時には眼軟膏を直接眼に入れることもあり、治療法は症状の程度によってさまざまな方法がとられます。
角膜内皮障害が進行した場合は、角膜内皮移植術や全層角膜移植術が必要になることもあります。

角膜移植の方法

角膜移植は角膜の混濁、むくみ、ゆがみの改善を目的とするものです。

従来は図のように、角膜の中心部分を切除して入れ替える全層角膜移植という方法が取られてきました。ただし現在は手術方法が進歩し、角膜の病気の部分のみを移植するパーツ移植という方法も多く行われています。
角膜の内側のみを入れ替える角膜内皮移植は、移植による拒絶反応が起きにくく、手術後の不正乱視が少ないとも言われています。

角膜障害に関するQ&A

角膜上皮障害はどのくらいで治るものですか?

角膜が傷ついても、通常5~7日間で古い細胞は新しく生まれ変わります。自己修復して、角膜上皮正常な構造に回復するまで1~4週間かかります。

コンタクトレンズで角膜を傷つけてしまった場合はどうすればよいでしょう?

コンタクトレンズや、眼に異物が入って角膜が傷ついても、ほとんどは上皮層の浅い傷なので、数日以内に治るでしょう。無理にコンタクトレンズ装用を続けるなど、修復を妨げないことが大切です。
気になる場合は眼科を受診してください。

角膜の傷が原因で視力低下につながると聞きましたが?

角膜の表面を傷つけた程度なら問題はありません。ただし、感染症などが原因の場合、角膜上皮障害が進行し、角膜の内部にまで傷がおよぶこともあります。
その結果、強い痛みや充血、視力低下を伴うケースもあります。感染症の種類によっては、角膜に穴が開くほど急激に状態が悪化することもあるので、早めの眼科受診をおすすめします。

 

 

【監修】

大阪大学名誉教授(医学部眼科)
不二門 尚先生
小児眼科、弱視斜視、眼光学、ロービジョンなどを専門とする他、一般眼科にも取り組んでいる。

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