CEOインタビュー
目まぐるしく変化する外部環境に対応し、
HOYAグループの永続的な成長に貢献する、
より強靭な事業ポートフォリオの構築を
進めていきます。
取締役 代表執行役 最高経営責任者(CEO)
池田 英一郎
2024年3月期は円安の影響を含め、さまざまなプラス・マイナス要因が入り交じりましたが、マネジメント視点からの評価を聞かせてください。また、年間を通じての課題認識などがありましたら教えてください。
2024年3月期は、情報・通信事業においてHDD基板や半導体用マスクブランクスがサプライチェーンにおける在庫調整により低調だった一方で、ライフケア事業が堅調に推移し、情報・通信事業の落ち込みをカバーできました。また、円安の進行を背景としたプラスの為替換算の影響もあり、売上収益・利益ともに過去最高を更新しました。低調な事業をほかの事業で補い全体のパフォーマンスを安定させる、事業ポートフォリオ経営の真価を発揮できたと評価しています。また、減収局面にあった情報・通信事業において、機動的かつ柔軟に費用のコントロールをおこなったことで利益率をおおむね維持した点も、収益性と効率性を重視する当社ならではの成果といえます。
一方、2024年3月30日に発生したサイバー攻撃によるシステム障害は当社のサイバーセキュリティの課題を浮き彫りにしました。複数の事業部において、製造や受発注など幅広いシステムが一時的に停止するなどの影響を受けました。このたびは多くのお客様、ビジネスパートナーの皆様に多大なるご迷惑をおかけしたほか、株主の皆様をはじめステークホルダーの皆様にもご心配をおかけしました。この場をお借りしてお詫び申し上げます。本システム障害は年度末に発生したため、2024年3月期の業績にこそ影響はなかったものの、2025年3月期において主にライフケア事業に影響を及ぼしています。すでにシステムは復旧し、事業活動は通常に戻っていますが、本件を受け当社はサイバーセキュリティの包括的なレビューを実施し、レビューを基にファイアーウォールなどのツールはもとより、ITセキュリティ構成を全面的に見直しています。サイバー攻撃の手法も日々変化しており、「100%安心・安全」のITセキュリティは存在しえませんが、常に新たなセキュリティ技術にアンテナを張りながら、継続的にIT投資をおこなうことで再発防止を図っていきます。
事業ごと、製品ごとの市場トレンドに違いがあるなかで、グループ全体の収益性を維持できているのは「事業ポートフォリオ経営」によるところが大きいと思いますが、改めて「事業ポートフォリオ経営」の特長と、それを支える仕組みについて教えてください。加えて、今後の環境変化などを踏まえ、現在の事業ポートフォリオにおける課題や今後、強化すべき分野などがありましたら教えてください。
前述のとおり、2024年3月期は情報・通信事業の不振をライフケア事業でカバーし、グループ全体でしっかりと成長を達成することができました。一方でコロナ禍においては、ロックダウンなどの行動制限によりライフケアが打撃を受けましたが、在宅勤務などを背景とした旺盛な需要により、情報・通信事業がグループ全体の安定化に貢献するという、正反対の構図でした。
マクロ環境は常に変化しており、また昨今においては地政学リスクの高まりもあり、ビジネスの身を置く地域や市場、顧客などをリスクと機会の両面から分散することが、業績の安定化にとって一層重要となってきています。
また、当社はこれまで、新規事業の獲得や売却などを通じて、事業ポートフォリオを外部環境の変化に合わせて柔軟に変化させてきました。強い事業を残す適者生存的なマネジメントを続けてきた結果、強靭なポートフォリオが形成されましたが、市場や事業には成長から成熟、衰退までのライフサイクルが存在し、ポートフォリオを構成する事業/製品がそれぞれどのステージにあるのかを見極めたうえで、適切に経営資源を配分していくことが肝要と考えています。さらに、事業ポートフォリオを継続的に発展させるべく、中長期的な成長事業の獲得をCEOの最重要課題と位置付け、内部開発とM&Aの機会探索の両輪で取り組みを進めています。
なお、当社の事業ポートフォリオは10以上の事業部が原則的にスタンドアロンで事業活動をおこなっていますが、2022年10月より眼科領域・メドテク領域・情報通信領域のテーマの下、3つの社内カンパニー下に編成しました。私自身が事業部の責任者であった頃より、事業間の連携が少なく、またそれぞれが持っているノウハウを持ち寄ることで新たな事業機会を得られるのでは、と考えていました。こうした考えに基づき、共通のテーマを掲げる社内カンパニーの下で既存事業の枠を超えた事業開発を推進しています。
以上のような体制下で、構造的に成長が見込まれる分野として眼科領域とハイテク領域に注目しています。前者については、世界的に近視人口の増加が加速していることや、老齢化の進展により白内障などの患者数の増加が社会課題となっています。既存の製品群でカバーできない領域も含め、積極的に成長機会を見出していく考えです。後者については、高度なコンピューティングやデータ解析といったテクノロジーに現代の社会活動は支えられていますが、これらのテクノロジーを裏方から支える素材や部材を中心に、新規性のある事業機会の探索を継続的におこなっています。
最後に、今後の見通しや重点施策、注目してもらいたいポイントなど、お伝えしたいメッセージがありましたらお願いします。
繰り返しになりますが、新型コロナウイルス後の2年間は、低調な情報・通信事業をライフケア事業が補う構図となっていましたが、足元(2024年9月現在)では大きく潮目が変わっています。システム障害や中国市場の景気後退などの影響により、2025年3月期はライフケア事業の成長がやや減速する一方で、在庫調整が一巡したEUVマスクブランクスやHDD基板にけん引され情報・通信事業の力強い成長が期待されます。EUVマスクブランクスについては次世代ノードの開発にけん引され、需要が大幅に増加してきています。中期的に競争の激化が予想されますが、次世代製品において常にフロントランナーのポジションを堅持し、今後も高い市場シェアを維持していく方針です。HDD基板については、近年、耳目を集める生成AI関連のデータをはじめ、世の中で創出されるデータ量が指数関数的に増加しており、コスト競争力があるHDDの存在がますます重要視されています。加えて、2023年末にサプライチェーンにおける在庫水準が適正化されたことにより、2025年3月期は以前のピーク水準(2022年3月期)並みの需要が見込まれています。こうした状況を踏まえ、両事業のキャパシティ増強を進めています。
以上のように、その時々で事業の好不調がありますが、事業ポートフォリオ経営によりグループ全体で見れば安定的に成長を続けています。変化が著しい外部環境に柔軟に対応し、会社が永続的に成長できるよう、今後も事業ポートフォリオの最適化を進めていきますので、株主・投資家の皆様をはじめステークホルダーの皆様におかれましては、引き続きのご支援とご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。