CFOインタビュー
多種多様な経営判断において
何事も数字に置き換えて考え、
企業価値の向上に資するよう
追求しています。
取締役 代表執行役 最高財務責任者(CFO)
廣岡 亮
HOYAグループのCFOに就任されて2024年で12年目となります。CFOとして大事にされてきたことを教えてください。
日々、事業活動のなかで多種多様な判断をおこなっていますが、そのなかにおいて何事も数字に置き換えて考えるようにしています。「今、取り組もうとしていることは数字的にどのような意味を持つのか?果たして企業価値の向上に資するのか?」という視点がCFOには必須だと考えています。例えば経営会議などの場で「戦略投資」というような抽象的な言葉が出てきたら要注意だと考えており、それが具体的にどのように企業価値の向上に貢献するのかを、より計数面で追求するようにしています。
東京証券取引所による2023年3月の提言などをきっかけに、日本の上場企業において資本効率の改善に向けた活動が活発化していますが、当社は少なくとも20年以上前から資本効率重視の経営を推し進めてきました。当社ではどのようにして資本効率の向上に取り組んでいるのでしょうか?重視する指標などがあれば併せて教えてください。
私がCFOに就任するずっと以前から、四半期単位の予算管理制度をはじめ先人たちが作り上げた土壌がありましたので、日々の事業活動において特別に意識することなく自然体で資本効率の向上につながる取り組みができています。何か特別な施策を実施するというよりは、例えば重要な投資を判断する際など然るべき場面において、厳格な数字の物差しを使うことが重要だと思います。物差しは多角的ですが、キャッシュベースでの投資回収期間は重きを置いているひとつです。また、キャッシュ創出力の源泉は収益性ですので、第一義の指標としては利益率が挙げられます。事業によって異なりますが、例えばライフケア事業であれば、利益率20%を暗黙的なベンチマークとし、これを基に税率なども加味したキャッシュフローベースで回収期間を考えるようにしています。もちろん、既存設備の更新投資のように早く回収できる場合もありますし、M&A投資のように時間がかかる場合もあります。いずれにせよ、1つ1つの案件において投下資本の回収を前提とした判断をおこなうことが肝要であり、また日々の事業活動におけるコスト意識も資本効率の向上につながっているといえます。
案件ごとに収益性や回収期間を追求する以外にも、例えば借り入れを増やして資本効率の向上を図るといった手法もあると思いますが、いかがでしょうか?
誤解を恐れずに言うと、そういったテクニカルなことにあまり意義を見出せません。無借金主義ではありませんので、自己資金を超えるスケールの買収などの際に借り入れをおこなうことも可能性としてはありますが、あくまで成長機会の獲得ありきの選択肢であり、具体的な目的がないまま、資本構成を変化させるために借り入れをおこなうのは本末転倒と考えています。この点は今後もぶれずにいたいと思います。
資本構成のお話が出ましたが、当社は現状5,200億円を超える現預金を保有しています。適正な現預金の水準感はどれくらいと考えますか?また、今後創出するキャッシュフローの配分のイメージはありますか?
現預金のうち8割強がUSドルやユーロなどの外貨建てとなっています。近年、円安が進行している結果として、円に換算した際に見た目の金額規模が大きく膨れ上がっているように見えていると解釈しています。とは言え、必要な運転資金に照らし合わせると、現状の現預金の水準はかなり厚くなっているとも認識しており、いたずらに現預金が積み上がらないようにしたいと考えています。キャッシュアロケーションについては、営業キャッシュフローが安定的に年間2,000億円を超える規模で創出できているなか、為替動向などにより上下しますが設備投資に500億〜600億円、配当に400億円ほどを想定しており、M&Aがなければ残りは自己株式の取得を通じて株主の皆様に還元するのが基本方針です。
CFOの観点から、当社の経営課題はどこにあると思いますか?
中長期における成長事業の獲得が課題であることは、経営陣における共通認識かと思います。内部開発はもちろん、特にM&Aを通じた事業ドメインの拡大について社内で議論する機会が多くなっています。当社の既存事業は収益力が高く、また前述の内部投資における回収期間の目安に照らし合わせると、M&Aでそのようなアセットはほぼ皆無です。M&Aをスタンドアロンで捉えると、それは基本的に企業価値をダイリュート(希薄化)するものとなります。この点は非常に難しい問題であり、確たる答えはありませんが、考え方としては既存の事業とのシナジーが見出せ、かつグループ全体の規模感でネガティブな影響を吸収できるようなアセットを探索していく方向性になるのだと思います。
最後に、ご自身がどのようなCFOでありたいかを聞かせてください。
いち会社人として「Integrity(清廉・誠実さ)」を大事にしています。人間ですから利己的な感情が脳裏をよぎることも当然ありますが、「この判断は会社にとってプラスになるか?」という尺度に常に立ち返るようにしています。また、「CFOの守備範囲としてはここまで」と自らの領域を線引きするのではなく、経営者視点で物事を俯瞰で捉えていきたいと考えています。