CSOインタビュー
ESGへの取り組みを着実に前進させ、
企業価値の向上につなげていきます。
執行役 チーフサステナビリティ(ESG)オフィサー
中川 知子
2022年度は、当社として初めてのTCFD開示など大きな進展がありました。その翌年である2023年度はCSOに就任されて2年目でしたが、重点的に取り組まれた活動について教えてください。
CSO就任1年目である2022年度は社内のESG体制の構築をはじめ、取り組みを加速していくために必要なグループレベルでの環境データ収集のためのシステム導入をおこないました。
2023年度は実際の環境データ収集が着実におこなわれるよう注力するとともに、TCFDの対象事業の拡大、スコープ3データの算出、また欧州のCSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)への対応準備を進めてきました。
当社の製品・サービスは多岐にわたり、各事業を取り巻く環境はさまざまであることからESG課題や取り組みの優先度も事業部によって異なります。事業部でのESG活動を深化させるには、事業部とディスカッションをしながら、それぞれ固有のESG課題を明確にし、それらに対しての目標や実効性のある施策を設定したうえで、グループ目標につなげる必要がありますので、2023年度は事業部との協力関係を構築した1年でした。
また、事業の垣根を越えて知見をHOYAグループ内で共有し、事業間のコラボレーションやグループ全体のESG活動をより広く周知すべく、グループ全体を対象に企業価値の向上に貢献したESGの取り組みを表彰する「ESGアワード」を開始し、世界各地でのさまざまな取り組みについて約50件の応募がありました。当該アワードを通じ、多くの社員が各職場で主体的にESG活動に取り組んでいることはとても誇らしく、またグループ内で共有できたことも大きな収穫でした。同時に、ESG活動が事業を取り巻く環境変化へのレジリエンスやグループ各社の競争力向上につながっていることをあらためて強く感じました。このような社内活動は継続して実行していきます。
スコープ1とスコープ2のCO2排出量削減に向けては、2030年度再生可能エネルギー(以下、再エネ)比率60%、CO2排出量60%削減(2021年度比)の中間目標達成に向けて着実に施策を推進しています。自社社屋への太陽光パネル設置、電力契約見直しや非化石証書の調達による再エネ化も含め2022年度は2%だった再エネ比率が1年で14%まで向上しました。今後も各国で可能な再エネ調達方法を整理し、最新情報を収集したうえで、再エネ導入を進めていきます。
一方、スコープ3は大きな課題となっています。2023年度に新たなチャレンジとして、全社的にスコープ3の算出を開始し、まずは主要排出源となっているカテゴリから開示を開始しました。バリューチェーンが事業ごとにさまざまで、スコープ3についても排出量の傾向や課題、対応策が異なります。今後は、事業ごとに対応を進めていくと同時に、事業共通の課題として、算出カテゴリを拡大すること、そしてカテゴリ1(調達)の1次データの収集や排出量の削減活動に向けてサプライヤーとのエンゲージメントを進めていく必要があると感じています。また、スコープ3の取り組みをさらに進めたうえで、科学的根拠に基づいた1.5℃目標であるSBT(Science Based Target)の認定取得を目指していく考えです。
ESGはカバーすべき範囲が多岐にわたります。そのなかにおいて、現時点で感じていらっしゃる課題があればお聞かせください。
環境分野では先ほども触れたように、スコープ3の把握・開示・削減目標の設定を重要な課題とし、SBT認定取得に向けて活動します。
そのほか、Social(社会)の分野では、2022年度にグローバルでの人事評価制度を導入し、グループ全体で共通の物差しをつくりました。1年が経過し、会社が社員に期待する資質や能力の考え方が社内に浸透してきていると感じています。また、人事部門により継続的な従業員エンゲージメントサーベイを実施し、その結果に基づいて事業所ごとに社員との対話を進め、より良い職場環境づくりのための改善施策を進めています。
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)も企業価値の向上には欠かせないトピックスです。特に女性活躍推進については情報・通信部門において、エンジニアを含めた女性のプレゼンスを高める必要性を感じています。この部分については、実際にエンジニア経験もある女性社外取締役の知見を社内に広げるための講演会を企画するなど、対応を検討しています。
ESGの推進には、自社だけでなくバリューチェーン全体で考えることが重要かつ大きなチャレンジだと思っています。スコープ3の削減もそうですが、グローバルにサプライチェーンが展開されていることから人権デュー・デリジェンスを含むサプライチェーンマネジメントのアップデートも必要です。直近ではサプライヤー行動基準を改定したところですが、その実効性を高める取り組みが必要となってきます。現在の取り組みを進化させ、欧州のサステナビリティ・デュー・デリジェンス法(Corporate Sustainability Due Diligence Directive:CSDDD)へ対応する形で進めていく必要があると考えています。
最後に、2023年度の総括と今後に向けての展望をお聞かせください。
2023年度は、非財務情報の開示に関するさまざまな開示フレームワークの概要がある程度、具体化された年であったと思います。今後、ISSB(International Sustainability Standards Board:国際サステナビリティ基準審議会)や欧州のCSRDなど国際的な非財務情報の開示フレームワークへの対応が必至となることから、当社においても社内の情報収集プロセス、内部統制の仕組みやそれらを実行するためのITシステムなどを見直し、整備しているところです。一連のプロセスを構築するのは大きなチャレンジとなりますが、さらなる開示の充実は当社の事業活動の成果・取り組みへの透明性を高め、ステークホルダーの皆様との対話を推進する好機になると考えています。またその実効性を高め、グループのコミットメントを明確にするために、当社の報酬委員会は、執行役の中長期インセンティブ評価においてESG目標達成による配分を10%から25%に引き上げました。実行部隊である事業部トップの報酬にも非財務KPIを組み込んでおり、経営との統合的なESG活動を実践することで企業価値の向上につなげていきますので、引き続きご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。