CEOインタビュー

HOYAらしさを維持しつつ、
中長期的成長につながる
新たな取り組みを推進します。

取締役 兼 代表執行役 最高経営責任者(CEO)
池田 英一郎

CEOに就任されて1年あまりが経過しました。この1年間の取り組みを振り返って、どのような成果や手応えを感じていますか?
一方、今後に向けた課題や新たな気付きなどがありましたら教えてください。

CEO就任1年目は情報・通信事業のいくつかの事業において、短期的な需要の低下があるなど、チャレンジングな年度でしたが、好調なライフケア事業や、後述のコスト・マネジメントにより過去最高の売上・利益を更新することができました。また、今後の中長期的な成長につなげるための、体制整備と種まきをおこなった1年でした。

2022年3月に代表執行役CEOに就任した際、当社グループが社会において果たすべき責任や提供すべき価値とは何か、を改めて整理したうえで、次の3つの事業領域に焦点を当てることとしました。

■眼科領域 Eye Health
高齢化社会の進展やデジタルデバイスの使用に伴うスクリーンタイムの増加などを背景に、視力や眼の健康が社会課題となっています。メガネレンズ、コンタクトレンズ、白内障手術用の眼内レンズなど既存製品で継続的に技術革新を起こしていくとともに、M&Aを通じて眼科領域における業容を広げ、世界中の人々の「見る」をサポートしていきます。

■メドテク Medtech & Life Science
高齢化社会を背景に、健康寿命の延伸、体への負担がより少ない医療に対する需要が高まっています。医療用内視鏡、人工骨、低侵襲性手術器具、クロマトグラフィー担体といった医療関連製品を通じて、世界の人々の健康とQuality of Lifeを支援していきます。

■情報・通信 Information Technology
インターネット、ビッグデータ、生成AI、オートメーション・・・現代の社会はテクノロジーと切っても切れない関係にあります。HDD用ガラス基板、フォトマスク、マスクブランクス、カメラ用レンズなどの精密光学製品の提供により、テクノロジーの発展をバックアップしていきます。

当社グループには独立運営されている事業部が10以上あり、これまでは事業部間の協業は多くはありませんでしたが、事業間での開発活動を通じた新技術・新市場の開拓を推進すべく、社内に上記3つのテーマに基づいたバーチャルカンパニーを設置しました。本体制の下、ARヘッドセット用のガラス部材など、事業部単体では成し得ないような新製品開発が進行しています。また、新たな事業の探索をM&Aの面からも進めています。これまでのM&Aは専らライフケア関連のものでしたが、スコープを情報・通信関連に広げています。ただ、すでに体制が確立しているライフケア関連のM&Aと異なり、情報・通信関連に関しては機会探索・分析・ディールメーキングなどに関する体制整備には思ったより時間がかかりました。こうした課題をしっかりと解決し、長期的成長を可能とする事業ポートフォリオの構築を進めていきます。

ライフケア事業が総じて好調である一方、情報・通信事業の一部製品については、サプライチェーンにおける在庫調整の影響を受けています。このような環境下においても、収益性をしっかりと維持できている秘訣は何でしょうか?

情報・通信事業は、在宅勤務/自宅学習などを背景とした大規模なテクノロジー関連投資の反動や、BCP(Business Continuity Plan)の観点から積み増しされていたサプライチェーンの在庫適正化の動きなどを受け、主にHDD用ガラス基板と半導体製造用ブランクスが2023年3月期後半よりマイナスの影響を受けています。また、進行期(2024年3月期)においても不安定な状況が続いています。

このような状況下、情報・通信事業において高い収益性を維持できているのは、「事業を測る物差しは常に数字」「なかでも収益性が最重要」という、HOYAの根底に流れる哲学に基づき、機動的なコスト・マネジメントの実践によるものです。一例を挙げますと、HDD用のガラス基板は2022年10-12月期において前年同期比で7割近い減収となりました。一般的な会社であれば、赤字転落してもおかしくない減収率ですが、複数の工場の操業を完全に停止するとともに、できる限りのコスト削減をおこなったことで、収益性の低下を最小限に抑えられました。「魔法の杖」のような、1つのソリューションがあるわけではなく、利益を死守する意識と、変調の兆候を感じたタイミングで、直ちにコスト抑制態勢にシフトすることが重要だと考えています。

自社株買いを含めた株主還元の考え方について教えてください。
また、今後の重点施策や最も注目してもらいたいところなど、お伝えしたいメッセージがあればお願いします。

キャッシュアロケーションにおいては、前述のとおり、中長期の成長に資する投資、M&Aが最優先と考えています。特に、今後も永続的な成長が見込まれる眼科領域と半導体製造領域におけるM&Aについては、候補先企業/アセットのロングリストを作成しており、検討を進めています。

株主還元については、これまでどおり、余剰なキャッシュについては自社株買いと配当を合わせ、原則として100%株主の皆様にお返しする方針です。2023年3月期においては、大型の投資案件がなかったこともあり、総株主還元額は1,900億円を超える過去最高の規模となり、これはフリーキャッシュフローよりも大きな金額水準でした。なお、近い将来におけるM&Aを想定し、現預金は4,000億円強と厚めに保有しています。

2024年3月期においては、ライフケアの好調が続くと見込む一方で、情報・通信事業の調整局面が継続すると予想しているため、柔軟で機動的なコスト管理に引き続き注力していきます。

最後になりますが、当社は事業活動を通じて、眼科領域/メドテク/情報・通信の3分野における社会課題の解決を推し進めるとともに、従業員のエンゲージメント向上、温室効果ガス(CO2)の排出量削減をはじめとするESGマテリアリティへの取り組みを通じて、企業価値のいっそうの向上を目指していきますので、皆様の引き続きのご支援をお願い申し上げます。

※ESGマテリアリティへの取り組みについては執行役Chief Sustainability (ESG) Officer中川知子のメッセージもご参照ください