CSOインタビュー

多くの進展があった2022年度に続き、
ESGへの新たな取り組みを
着実に進めていきます。

執行役 チーフサステナビリティ(ESG)オフィサー
中川 知子

新しい経営体制では「ESGの強化」を重要な経営課題のひとつに掲げられ、チーフサステナビリティ(ESG)オフィサーとして中川さんが就任されました。就任後、まずはどのようなことに取り組まれたのでしょうか?

2022年3月にCSOに任命され、まずはESGを推進する体制づくりをおこないました。組織面では本社に専門部署を設置し、各事業部にESG担当を配置しました。また、活動の指針となるサステナビリティ方針を取締役会の承認の下、制定しました。取締役会に対してはESGに関する定期的な報告をおこなっています。執行役の評価には報酬委員会が決定したESG目標が設定されていますが、事業部門長の評価にもESG指標の組み入れを開始しました。本社と事業部が一体的に活動することにより、これまで以上にスピード感を持って対応ができるようになったと感じています。

具体的な取り組みについてはいかがですか?ESG課題は多岐にわたりますが、それぞれの課題にどのように取り組まれたのでしょうか?

まず人的資本については、人事部門により継続的な従業員エンゲージメントサーベイが実施され、その結果に基づいた改善施策を導入しています。2022年度は初めてグローバルでの評価制度を導入し、グループ全体で共通の物差しをつくりました。このような取り組みにより人的資本の見える化と各社員の成長への具体的な支援をおこなっていきます。

また、当社グループ全体として人権デュー・デリジェンスの活動を推進しました。2022年度は外部の専門家にサポートいただきながら潜在的な人権リスクを特定しました。今後はこれまでの取り組みに加えて、サプライヤーなどバリューチェーン全体のステークホルダーを含む、より強固な人権デュー・デリジェンスの仕組みを構築・強化していきます。

次に環境負荷低減については、体制づくりとして環境データを収集し管理するためのプラットフォームを刷新し、より正確な環境関連データの収集をグローバルにできる体制を整えました。また、今回から第三者によるGHG排出量の検証を開始しています。GHG削減目標については、当社が排出しているスコープ1+2のGHGの9割以上がスコープ2の購入電力起因によるCO2排出であり、2023年2月にRE100へ加盟し、2040年度までに使用電力を再生可能エネルギー由来の電力100%へと進め、CO2排出量削減を目指すことを目標としました。2021年度には約52万トンのGHG排出がありましたが、これを2030年度までにスコープ2については再生エネルギー由来の電力への切り替え、スコープ1については電化ならびにカーボンオフセットにより60%削減し、HOYAグループの創立100周年に当たる2040年度には100%削減の実現を目指します。事業部ごとに再生可能エネルギー導入やCO2削減に向けた中長期ロードマップを作成しており、達成度を事業部門長の評価に組み込むことで実効性を高めています。

開示については、当社として初めてTCFD提言に基づくシナリオ分析を実施し情報開示をおこないました。ESG評価については、MSCI ESGレーティングにおいて、最高評価のAAAにアップしたところです。当社のESGの取り組みや統合報告書の内容を充実させている点を評価いただけたと思っています。

その他の進捗として、国連グローバルコンパクトへの署名といった国際的なイニシアチブへの参加を進めています。さらに、当社グループでは目や視力に関する事業が複数あることから、Orbis Internationalという、主に目の健康に関する社会貢献活動をおこなうNGOとの提携を通して、途上国を中心に、眼科医療が届いていない方々へのサポートを続けていきたいと思っています。

実際にESG改善の取り組みを進められた中での、気づきや課題と感じられた点について教えてください。

当社は、各事業部門に大きく権限を委譲しているため、それぞれが独立した会社のように運営されています。ESGの取り組みも事業部ごとにおこなわれているため、グループとしての全体像が分かりづらくなっており、他事業部の取り組みを共有できずにいました。このため、まずは各事業のESG担当者を通してそれぞれにおける課題や情報を、本社ESG推進室に集約することから始め、同時にESG情報を集約し発信する社内ポータルサイトをつくって、社内の情報や知見を共有する仕組みづくりをおこないました。また、事業部門では収益性を考えるうえで、環境性能が高くても投資回収期間の長いユーティリティ設備の導入の優先度が下がってしまうことが多かったのですが、ESGに取り組む意義についての理解を深めることで収益性とのバランスをとりつつ、中長期的に環境負荷を削減する方向で計画を立ててもらっています。

会社としてTCFD開示を初めておこなわれましたが、具体的にどのようなことをされたのでしょうか?

今回は初回であったため電力消費量、つまりCO2排出量の多い2つの事業部門であるメガネレンズとHDDガラス基板の主要な生産拠点のタイとベトナムの工場を中心として、シナリオ分析をおこないました。気候変動に関連するリスクと機会分析に関してはTCFDのフレームワークに沿って、時間軸を中期・2030年と定めておこなっています。

リスクおよび機会の評価では、本社事務局と両事業部の関連部門から成る約30名が参加しワークショップ形式での議論をしたのですが、それぞれの見地から専門性の高い見識を共有し、活発な意見の交換ができました。また、日本に加え、ヨーロッパや東南アジアからの参加者もあり、シナリオ分析などにおいて現場の生の声を反映できました。

特定したリスク・機会の詳細については開示資料をご確認ください。こうしたプロセスを定期的におこない、外部環境が、当社を含むサプライチェーンに与える影響を分析し、特定したリスク・機会に対して日々の事業活動の中で対応していくことが重要だと考えています。

2022年度は多くの進捗がありましたが、今後の取り組みについても教えてください。

ESGは項目が多岐にわたり、それらの中から当社への影響度が大きい項目を選び計画を立てて取り組んでいくことが大事です。当社が今後、優先的に取り組んでいく項目としてはスコープ3の算定、TCFDの分析対象事業の拡大、人的資本の拡充、サプライチェーンでの人権デュー・デリジェンスなどがあります。これからも着実に取り組みを進めていきたいと考えています。

引き続き、ステークホルダーの皆様との対話を深めながら、当社のサステナビリティ/ESG活動をより一層、推進させ、持続可能な社会の実現への貢献という軸を持って中長期的な企業価値の向上に取り組んでいきますので、ご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。