社外取締役メッセージ:常にガバナンス体制を見直しつつ、事業の成長戦略とESG戦略の整合性を取って経営を変革していきます。

筆頭独立社外取締役
指名委員会委員長 報酬委員 監査委員
浦野 光人

社外取締役のお立場として、どのように取締役会を評価していますか?

取締役会で取り上げられている内容は大別すると4つです。1つめが、会社法で定められた事項で、例えば決算や配当などがこれに当たります。2つめが四半期ごとの予算(計画)で、最も活発に意見を交わしている部分です。すべての会社が四半期ごとに決算をレビューしているわけですが、HOYAほど緻密かつストレッチした形で四半期のPDCAを回している会社を他に知りません。また、四半期という短期を軸としつつも、中長期的な成長戦略も織り込まれており、社外取締役としても多様な視点から問題点などの指摘や提案を行っています。3つめが事業レビューで、直近の業績というよりは、中長期におけるマーケット予測や戦略に関して事業責任者から説明いただいたうえで、取締役・執行役の間で議論しています。最後が、事業開発に関するもので、各事業から大小を問わず案件が付議されますが、M&Aや国際ビジネスなど、取締役それぞれのスキルセットを活かし、客観的な意見を述べています。いずれのテーマにおいても、物事を偏った視点でとらえず、多角的に検証できており、またPDCAの回転がきわめて速いと評価しています。

HOYAの優れた点、また改善が必要な点を教えてください。

私自身、さまざまな会社を経験してきましたが、HOYAが最も優れていると感じるのが、「小さな池の大きな魚」という経営哲学に則って事業ポートフォリオ経営を実践している点です。また、ポートフォリオのなかにおけるそれぞれの事業の位置づけを明確にしたうえで、「スター/キャッシュカウ/問題児」のそれぞれを意識的に抱えている点が素晴らしいと感じています。その結果として、資本効率を含む財務成績が抜群のパフォーマンスを出せていることも優れた点でしょう。また、コーポレートガバナンスについても、早い段階から取締役会の過半数を社外取締役とし、委員会制へ移行するなど、最先端と言われ続けてきました。中身を見ましても、社外取締役の多様性—さまざまな業界での経営経験や専門性を背景とした、多角的な見方—が、ガバナンス強化に貢献しています。

ESGにおいてガバナンス(G)は前述のとおり高い評価を受けてきましたが、他方で環境(E)と社会(S)については他社並み、もしくは遅れているところもあり、改善が必要だと考えます。優れている部分が目立つので、まだ批判される状況にはなっていませんが、これから先は弱点の克服に向けスピードアップを図ります。もう一点が、サクセッションプランの構築をグローバル企業並みの水準にすることです。こちらについては、CHRO(最高人事責任者)を中心にしながら仕組みを用意しているところであり、社外取締役・指名委員としても、しっかりと取り組んでいきたいと考えています。

社外取締役の役割は、一義的には経営の監督だと思いますが、今後どのような点に注力していきたいとお考えでしょうか?

社外取締役の最も重要な役割は、何か悪いことが起きた場合にCEOを解任することであり、それができる胆力のある人が社外取締役の条件です。社外取締役は、みなさん豊富な経営経験をお持ちの方ばかりですので、いつでもそれが可能な体制にあります。私が社外取締役に就任してからの9年間、ガバナンス体制に対して外部からの評価を受けつつも、常に見直しは必要であると考えてきました。HOYAのガバナンスは非常に優れていますが、例えば、取締役会議長は社内取締役(代表執行役CEO)でいいのか?カンパニー制やホールディングス制などの体制もありなのでは?CEOに何かが起きた場合はどうする?といった点をあえて問題提起してきましたし、再度、議論する必要があると考えています。結果的に現状のままでよいという結論に達するかもしれませんが、こういったテーマを多面的に議論していくことが重要であると考えています。

社外取締役のお立場から、新CEOが注力ポイントとしている2つの経営課題(成長事業の開発/ESGの強化)についてコメントをお願いします。

事業開発の方向性については、現在進行形で執行役と議論をしているところです。池田さんをCEOとして選任したひとつの理由が、HOYAグループの中長期的な成長に向けた明確な展望と道筋を示したこと、です。情報・通信事業については、既存事業以外のところで成長のタネを探しつつも、技術優位性をこれまで以上に活かすことで事業開発を実現していくという方向性で固まりつつあります。他方、ライフケア事業については、眼科領域をテーマとした業容の拡大を検討しています。メガネレンズ、コンタクトレンズ、眼内レンズ、眼科用手術器具など、すでに持っている事業、これらと親和性の高い事業領域、目に関するマーケットを広くとらえ直したうえで議論を行っています。国際的な事業展開やM&Aなどの見識を活かして社外取締役としてサポートし、当社がまだまだ成長していけることを示していきたいです。

HOYAがESGを推進するに当たって重視すべきポイントを教えてください。

これまで、色々な会社を見てきましたが、ESGについては単純に「マーケットでどう見られているか?」ではなく、トップマネジメントがどこまで腹落ちしているかが重要で、それが欠落していると社員が付いてきません。

この10年ほど、アウトドア用品のパタゴニア社に代表されるようなベネフィット・コーポレーション(経済的利益だけではなく、環境面や社会面でも利益を生み出す企業)という考え方が米国を中心に現れてきています。これがESGの究極の形かもしれないですし、株主至上主義的な資本主義からステークホルダー資本主義への流れとも合致していると言えるでしょう。

また、私は基本的に「人間以外の生物に対するリスペクト」と「地球をシステムとしてとらえる視点」がないとESGは進まないと考えています。この300年の間、ヒトという1種類の生物が地球環境を破壊し、他の生物が生きる権利を奪ってきました。人間社会における科学・技術の発展が、地球の生態系を根本的に変えてしまったのは事実です。しかしながら私は、これを解決するのもまた科学・技術であると考えます。「儲け主義的な組織(=企業)では地球の環境課題は解決できない」という意見もありますが、企業とは、それぞれが得意とする分野での社会課題解決を最も効率的に実現できる組織だと私は思います。すなわち企業こそが、持続可能な地球を実現するのに最も優れた組織体であると信じています。当社は昨年(2021年9月)、マテリアリティを特定しましたが、適宜マテリアリティの追加や見直しは必要だと考えています。HOYAの事業は多岐にわたり、それぞれでマテリアルな課題は変わってくるため、事業部単位で議論をしていく必要はあると思います。

指名委員長のお立場から、新CEOの選任理由を教えてください。

池田さんの多岐にわたる事業分野での見識と実績が決め手となりました。技術面だけでなく、マーケットの読み方や顧客との付き合い方も含めて素晴らしい。なかでも情報・通信事業の成長については、前CEOの鈴木さんがリーダーとして引っ張ってきたことに間違いはないのですが、池田さんの貢献度も極めて大きかったと思います。

CTOとしてライフケア事業を含めたグループ全体の技術開発を見てきた経験を活かし、技術の優位性の視点から事業ポートフォリオ全体を俯瞰できるのも池田さんの強みと言えます。もう1点付け加えますと、コンタクトレンズの事業(アイシティ)の責任者を兼務していたときの発言が印象に残っています。Eコマースを含め、マーケット環境が変わっていくなかで、今後の店舗展開をはじめとする戦略の見直し時期であることを、短期間で指摘していた洞察力にも感銘を受けました。HOYAの経営哲学や会社のメカニズムを熟知している点も含め、HOYAのCEOに適任だと考えました。

今回の株主総会(2022年6月)で、社内取締役が2名、女性取締役が2名となり、取締役会の構成が変わりましたが、この背景を教えてください。

社内取締役の増員については、池田さんから、廣岡さんに就任いただきたいとの要望がありました。かつてCFOが取締役だった時期がありましたし、廣岡さんは、四半期予算を含め毎回、取締役会に参加しており、社内と社外の人数が逆転する話でもないので、我々としてもまったく違和感がなく、良い提案だと思いました。

社外取締役については、ガバナンスや事業開発、グローバルでの知見や経験のある女性候補者を探すことが長らく課題でした。毎年、候補者をリストアップして意見交換するなかで、日本には女性かつ現役の事業開発・経営経験者が少なく、候補がなかなか上がってこないため、対象を海外にも広げていました。今回は国内では数少ない、技術と経営に精通している長谷川さんと、米国を拠点にグローバルでの経験が豊かな西村さんに来ていただけることになりました。

最後に読者へのメッセージをお願いいたします。

現状に甘んじず、今後もHOYAが素晴らしいパフォーマンスを発揮し、持続的に成長できるよう、経営を変革させていきます。技術優位性のある情報・通信分野をはじめ、構造的な成長が期待されるアイケア関連の分野などの成長戦略をマーケット起点で現在、詰めているところですので、ご期待ください。また、事業の成長戦略とESG戦略の整合性を取りつつ、SDGsが掲げる社会課題の解決につなげていく経営を行っていきますので、ステークホルダーの皆様の引き続きのご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。