CEOインタビュー:事業の垣根を越えた研究開発と視野の広いM&Aで経営課題である新規事業を開発し、新たな成長のための事業ポートフォリオを構築し

取締役 兼 代表執行役 最高経営責任者(CEO)
池田 英一郎

CEO就任に当たって、現在の心境をお聞かせいただくとともに、これまでのご経歴や主な功績についてご説明ください。特に、選任された理由について、ご自身ではどのように感じていますか?

CEOが交代するとすれば、社内ではなく社外から選ぶだろうと漠然と思っていましたので、指名委員会より打診をいただいたときには、大変驚いたというのが率直な感想でした。

私は大学で化学を専攻し、卒業後の1992年4月に入社、MD(メモリーディスク)事業部で磁気記録媒体を製造する部門においてプロセスのエンジニアとして従事していました。2010年に同部門の責任者になったのですが、そのタイミングで磁気記録媒体の事業を顧客に売却することになりました。自身にとって初めての大型の事業売却でしたが、これを完遂しました。同年9月には、光学レンズSBUの責任者となり、その収益性を大きく改善し、結果として情報・通信事業全体の利益率の改善に貢献しました。これらの実績が評価され、2013年に執行役情報・通信事業担当のCOOに就任したものの、当時の情報・通信事業は成長事業であるライフケアを支えるキャッシュカウという位置づけであり、投資が抑制されていたため、売上は右肩下がりでした。今でこそ成長の柱となっていますが、当時はニアライン向けハードディスク用のガラス基板、EUV向けマスクブランクスの成長性について社外はおろか、社内においても疑義を抱く人が少なくありませんでした。そのような状況ではありましたが、事業の選択と集中を進め、COO就任以降は増収基調に戻すことができ、また収益性の改善も達成できました。2018年には、私にとって初めてのライフケア系の事業であるコンタクトレンズ事業の責任者を2年ほど経験、また2021年に内視鏡事業の開発の責任者も兼任しました。このように、執行役の立場だけではなく、現場目線で、HOYAグループ内でさまざまな分野を経験してきました。そうした幅広い経験と実績を、指名委員会に評価いただいたのだと考えています。

CEOの最も重要な役割とは何だとお考えですか?その上で、これまでと変わらないところ、変えてみたいところについてご説明ください。また、貴社の経営課題をどのように認識していますか?

当社は80年に及ぶ長い歴史のなかで、競争力の弱い事業からの撤退や売却を行いながら、競争優位性のある事業に経営資源を集中させ、ポートフォリオをより強固にしてきました。この事業ポートフォリオマネジメントこそが、当社の強みでもあり、HOYAのCEOにとって今後も最も重要な役割であると認識しています。なかでも次の10~20年において成長をけん引する事業をポートフォリオに加えていくことが、私の最大の使命だと考えています。当社グループでは、基本的に事業ごとに独立した事業運営をおこなっていますが、今後はひとつの事業部が単独では成し得ないような新たな技術や製品を生み出すべく、事業の垣根を越えた研究開発の仕組みを構築していきます。また、M&Aについては、これまではライフケアに偏重していましたが、今後は情報・通信分野にも視野を広げ、新たな成長事業を探求していきます。とりわけ半導体関連の領域は既存事業とのシナジーも期待できることから、関心を寄せています。

2022年3月より、Chief Business Development Officer(Augustine Yee氏。Chief Legal Officerを兼務)の下、事業開発の取り組みを強化していますが、これまでの「成長ドライバーのライフケア、キャッシュカウの情報・通信」という位置づけではなく、今後はセグメントを問わず、事業ごと・製品ごとに位置づけを検討し、より成長ポテンシャルの高いものに経営資源を投下していきます。なお、収益性や投資効率といった「数字で判断する」という考え方は今後も変えません。

現在、長期的な成長事業の開発と並ぶ重要な経営課題が「ESGの強化」です。ESGへの取り組みは当社グループの中長期的な存在意義にかかわる重要事項と位置づけ、2022年3月より、新たに任命されたChief Sustainability Officerの下、ESG推進室を新設し、ESGへの取り組みの強化を図っています。新体制を軸に、今後は、2021年9月に特定したESGマテリアリティに対応する目標を設定したうえで、具体的な施策を進めていきます。

ESGについては執行役Chief Sustainability (ESG) Officer中川知子のメッセージもご参照ください

コロナ禍の長期化に伴う経済活動への影響やサプライチェーンの混乱に加え、原材料やロジスティクス等のコスト高騰、ロシアによるウクライナ侵攻など、グローバル経営を取り巻く環境はますます不確実性が高まっています。今後のリスクマネジメントについては、どのようにお考えですか?

事業ポートフォリオマネジメントの真価はリスク分散です。売上の地域構成や顧客層、景気や為替への感応度などが事業ごとに異なることにより、さまざまな不確実性に対してレジリエンスを発揮できます。例えば、2008年のリーマンショック時には情報・通信事業が大きな打撃を受けましたが、景気の影響を比較的、受けにくいライフケア事業は堅調に推移しました。他方、新型コロナウイルスの蔓延による各国の規制などによりライフケア事業は大きく影響を受けましたが、情報・通信事業はそれほど影響は受けず、グループ全体の安定化に貢献しました。今後も新型コロナウイルスおよび地政学的な要因等によるインフレーションやサプライチェーンの混乱などに伴う不確実性が継続すると見込んでいますが、現状の体制を継続的にレビューし、必要に応じて変更を行っていきます。またコンプライアンスリスクについては、グループ本社のChief Compliance Officerの下にグループ横断的な体制を整え、より効果的なコンプライアンスリスク・マネジメントを実施していきます。

自社株買いを含めた株主還元の考え方について教えてください。また、新CEOとしての抱負や、最も注目してもらいたいところなど、お伝えしたいメッセージがあればお願いします。

キャッシュアロケーションについては、成長分野への投資を最優先とし、余剰分を株主の皆様に還元していく方針に変わりはありません。自社株買いと配当を別々に捉えるのでなく、トータルの還元額で考えていく点も変更ありません。2022年3月期については、期末配当を45円から60円に増額し、また合計650億円以上の自社株買いを実施したことにより、総還元額は約1,000億円となりました。

前述のとおり、HOYAのCEOとして最大のミッションは、事業ポートフォリオのマネジメントです。長期的な成長をけん引するビジネスの開発・獲得を促進するとともに、成長性に疑義のある事業や製品については必要に応じて見直しを行い、HOYAグループの永続的な成長に貢献する事業ポートフォリオを構築していく所存です。

「収益性重視」「数字の物差しで判断」といったHOYAイズムは今後も大事にしつつ、今一度、当社が存在する意義に立ち返って経営に当たっていく決意です。それはすなわち、眼や健康に関するソリューション、現代の社会経済活動に必須な情報技術を支えるソリューションの提供などを通じて、世界中の人々のQuality of Lifeを向上させることです。当社は2021年に創業80周年を迎えましたが、創業100周年に向けて次の20年間も、世界中の多様な人々の生活の質を向上させ、より良い明日を迎えられるよう、常に情熱を持って市場の創造と革新を追求していきたいと考えています。