


CEOインタビュー
市場環境における
不確実性の高まりに柔軟に対応し、
中長期的な安定成長を
継続していきます。
取締役 兼 代表執行役 最高経営責任者(CEO)
池田 英一郎
不確実な経済情勢が続くなかで、2025年3月期の連結業績が過去最高を更新した背景について、マネジメント視点からポイントとなる要因をお聞かせください。
2025年3月期の連結業績は、当社として過去最高を更新できました。情報・通信事業において、とりわけ半導体製造用マスクブランクスやニアラインHDD用ガラスサブストレートが前年度の在庫調整からの反動を受けて大幅な増収増益となり、全体の業績を力強くけん引しました。
ライフケア事業においては、期初に発生したITインシデントの影響を一時的に受けたものの、システムの迅速な復旧や積極的な販促活動により、売上を再び成長軌道に戻すことができました。また、前述の販促活動に伴う費用増により通常時よりも低い収益性が続いていましたが、年度内にこれらの取り組みが一段落し、収益性についても正常化できています。また、外部環境要因としては、中国市場において経済の減速や反腐敗運動をはじめとする規制がライフケア事業の中国ビジネスに影響を与えました。
以上のように内部・外部環境の両面において、さまざまな動きがありましたが、情報・通信事業の主要製品における顧客からの旺盛な需要に対し、迅速に供給体制を確保したことで好業績につなげることができました。

過去数年間の業績を振り返ると、パンデミックを含め、外部環境がかつてないスピード感で変化し、製品ごとにさまざまな影響を受けたものの、全体としては着実な伸びを続けてきました。これまでの事業ポートフォリオ経営を自己評価していただくとともに、今後の方向性についてもお聞かせください。
この数年、新型コロナウイルスのパンデミックやサイバー攻撃によるITインシデントなど、まさに予測困難な外部環境の変化に直面しましたが、全体感としては堅実な成長を続けることができたと評価しています。
社会の高齢化や近視人口の拡大などを背景に構造的に成長するライフケア事業と、シクリカルに伸び縮みしながら成長する情報・通信事業という、異なる成長軌道を組み合わせた両輪により、グループ全体で安定的に成長させることが当社の事業ポートフォリオの基本コンセプトです。
一方、日々の事業活動のなかにおいては、ライフケア事業と情報・通信事業という二元論ではなく、製品ごとで戦略を立案し、実行に移しています。また、成長軸かキャッシュカウかといった事業ポートフォリオのなかにおける位置付けも製品ごとで定義しています。当社には異なる製品を展開する事業部が10以上ありますが、これだけ多種多様な製品・サービスを展開していると、そのすべてがうまくいくことはなかなかないですし、逆にすべてが低調になることも少ないかと思います。重要なことは、特定の事業に変調の兆しがあった場合に、需要に応じた生産能力の調整や草の根でのコスト削減をおこなうこと、比較的好調な事業へ経営資源を配分するといった、タイムリーな采配だと考えています。
過去3年の業績

今後の市場トレンドやリスクに対する認識についてお聞かせください。そのうえで中長期における重要テーマをどのように設定していますか?また、2026年3月期の見通しや主な取り組みについても教えてください。
市場環境は依然として不透明であり、地政学的リスクを軸に、金利や為替の変動、関税やインフレーションなど、多様なリスクが顕在化しつつあります。このような状況下、グローバルな事業運営において中長期的にサプライチェーンの多様化や生産拠点の見直しといった、柔軟な対応が求められる場面が一層、増えてくると思われます。
また、マクロ環境において不確実性が高まっているゆえに、事業ポートフォリオのキャリブレーションの重要性がますます高まっています。当社はこれまでも事業の売却や撤退をおこなうとともに、内部開発やM&Aを通じて新規事業を獲得してきました。過去数年においても、いずれも比較的、小さい規模ではありますが、ノンコア事業の売却を進めています。今後においても、課題事業の手当てを着実に実行していくとともに、中長期における新規成長領域を特定し、事業化していくことが引き続き重要なテーマとなります。ニッチ市場において大きな市場プレゼンスを獲得し、高い収益性を実現する「小さな池の大きな魚」という当社の原点に立ち返り、自分たちのコアコンピタンスを活かせる市場を探索していきます。
過去15年における主な買収/撤退事業

新たな配当方針を公表した背景についてお聞かせいただくとともに、潤沢な現預金の今後の活用を含めたキャピタルアロケーションの考え方についても教えてください。
投資家の皆様とのコミュニケーションのなかで、積極的な自社株買いを評価いただいている一方で、定量的な配当方針がないことや、近年における配当性向の低下についてご指摘いただいていました。このような背景の下、フリーキャッシュフローの100%還元を目指す大枠は変わらないものの、新たに配当性向40%を軸とする累進配当の方針を策定しました。
キャピタルアロケーションについては、これまで同様、研究開発や生産能力増を軸とした内部投資を優先し、機会とタイミングを見極めながらM&Aを実施していく方針です。近年においては、内部投資を増やしてきたものの、M&Aについては比較的、小規模なボルトオン型のものが中心だったこと、また円安が進行したことで外貨建ての現金が増加し、結果として現預金の水準が拡大しました。当社は1990年代には、すでに資本効率を意識した経営に軸足を移していましたが、今後も資産の効率性、収益性の拡大の両面から、資本効率の一層の向上を図り、企業価値の持続的拡大を目指していきますので、株主・投資家の皆様におかれましては、引き続きのご指導・ご鞭撻をお願い申し上げます。
